資生堂と京セラの毛髪再生医療で薄毛治療はどう変わる?

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日々進化する薄毛治療。その中でも注目なのが「毛髪再生医療」です。完治が難しいと言われているAGA治療の常識を打ち破る可能性を持った治療方法として資生堂や京セラなど大手企業が研究を進めています。今回はそんな毛髪再生医療について解説します。

毛髪再生医療とは

再生医療とは身体の機能が失われた部分に新たな細胞を移植することにより、失われた機能を再生させて疾患を治療する医療のことです。

再生医療の技術は、臓器や四肢、神経細胞など人体の様々な部位を対象にして開発が進んでおり、AGAをはじめとする脱毛症の治療においても大きな注目を集めています。
脱毛症を治療するための再生医療は、毛髪再生医療と呼ばれており、現在では2020年の実用化を目処に各社が研究開発を進めています。

毛髪再生医療による薄毛治療の仕組み

細胞イメージ

毛髪再生医療による基本的な薄毛治療のプロセスは以下のようになります。

まず、治療を受ける患者さんの後頭部(毛髪が残っている部分)から、毛包を含むようにして数ミリメートル程度の大きさの頭皮を採取します。

後頭部の組織を用いるのは、この部分が脱毛を促進する男性ホルモンであるジヒドロテストステロンの影響を受けにくいとされており、移植後の細胞も男性ホルモンの影響を受けにくくなると期待されているためです。

採取された頭皮組織には毛球部毛根鞘細胞(dermal sheath cup cell:DSCC)と呼ばれる細胞が含まれています。
DSCCは毛包を活性化すること強力に毛髪再生を誘導することで知られている細胞です。

この、DSCCを人工的な培養により増殖させてから薄毛部位に注入することで、毛母細胞の細胞分裂が活発になり発毛が促進されるというのが毛髪再生医療の基本的な考え方です。
従来の再生医療である自毛移植では採取した毛根をそのまま薄毛の部位に移植しますが、毛髪再生医療では採取した細胞を培養により100万個程度に増殖させてから移植します。

このため、自毛移植では広い範囲の毛髪を切除する必要があるのに対して、毛髪再生医療では切除する量を最小限に抑えることができ、身体的な負担も少なくなります。

また、自分自身の細胞を増殖させたものを移植するため、拒絶反応も起こりにくいとされています。
広い範囲に適用できるため、男性のAGAだけでなく、びまん性脱毛症に悩む女性に対しても有効であり、薄毛治療の救世主的な存在として大きな期待が寄せられています。

資生堂や京セラも毛髪再生医療に参入

実験イメージ

現在、日本では資生堂と京セラの2社が毛髪再生医療に参入しており、実用化に向けて研究開発を進めています。
両社が研究を進めている毛髪再生医療の手法はやや異なっていることが明らかになっており、それぞれ以下のような特徴をもつと報じられています。

資生堂の毛髪再生医療

資生堂の毛髪再生医療の一番の特徴は、先ほど解説したように毛球部毛根鞘細胞(DSCC)を培養する点にあります。
脱毛症の患者さんの後頭部からDSCCを採取して培養した後に脱毛部位に移植し、毛母細胞の分裂を活発化させて発毛を促進させるという手法を用います。

採取する頭皮は数ミリメートルのみのため、自毛移植と比べて圧倒的に侵襲性は低いです。また、培養したDSCCを移植する際にはそれほど太くはない注射針を用いると予想されており、身体的な負担も少ないと考えられています。

ただし、DSCCは100万個ほどに増殖させたのちに移植するため培養には3か月程度の時間がかかるとされており、この点には注意が必要と言えるでしょう。

資生堂は世界最先端の技術を誇るカナダのレプリセル社の毛髪再生医療技術を導入しています。

今回、資生堂が導入するレプリセル社の技術は、レプリセル社が 10 年以上におよぶ基礎研究や臨床研究を経て、安全性が担保された世界最先端の毛髪再生・特許技術です。患者(脱毛症や薄毛に悩む方)の頭皮から採取した特定の細胞※1 を培養した後、脱毛部位に移植(注入)、脱毛部位の損傷した毛包※2を再活性化させ脱毛部位の健康な毛髪の成長を促す「自家細胞移植技術」です。

また、東京医科大学や東邦大学医学部とも技術提携していると発表しており、2016年には臨床試験を開始したことを発表しています。

このたび臨床研究を実施する自家細胞移植においては、患者さん自身から採取した細胞を培養して用いるため、免疫拒絶などの副作用がなく比較的安全性の高い治療方法と考えられ、且つ、必要な組織採取も直径数ミリ程度と侵襲性が比較的小さいので、女性も含め幅広い患者に適用できると考えられます。

臨床試験では実際に被験者から毛包を含む頭皮を摂取し、毛球部毛根鞘細胞の培養を行い、被験者の脱毛部へ注入を行います。治療効果や安全性が確認されれば、実用もいよいよ現実的になってきます。

京セラの毛髪再生医療

京セラの毛髪再生医療が資生堂と異なる点は、後頭部から採取した組織のうち、毛球部毛根鞘細胞(DSCC)ではなく毛乳頭細胞とバルジ領域の上皮細胞を培養することにあります。
毛乳頭細胞は毛母細胞にシグナルを伝達して細胞分裂による発毛を促すという、いわば司令塔のような役割を果たす細胞です。

また、バルジ領域上皮細胞とは毛乳頭細胞を増殖させる働きをしており、バルジ領域上皮細胞を培養することは結果として毛乳頭細胞の増殖にもつながります。

このように京セラの毛髪再生医療は毛乳頭をメインのターゲットとしているところに特徴があります。

京セラの毛髪再生医療が資生堂と異なるもう一つの点は、毛包の基礎となる細胞が集まった「原基」と呼ばれる集合体を移植することにあります。
原基には毛乳頭細胞とバルジ領域上皮性幹細胞が高密度に詰まっています。
細胞の集合体である原基はサイズが大きく、通常の注射器で移植することはできません。

具体的な移植方法はまだ明らかにされていませんが、注射に比べてやや侵襲性が高い方法になると予想されています。

京セラの手法でマウスを用いた実験では毛包原基を28個移植したところ、3週間後に1平方センチメートルあたりに124本の発毛が認められたと報告されており、十分な効果が期待できるとされています。

また、京セラは理研と技術提携しながら研究を進めていると発表されており、資生堂と同じく2020年の実用化が期待されています。

これらの最先端の毛包再生技術をヒトの脱毛症治療へと展開するため、今後、京セラと理研、オーガンテクノロジーズの三者が協力し、ヒトへの臨床応用に向けた共同研究を実施することといたしました。 本共同研究では、細胞培養技術や移植技術の確立、および移植に向けた機器開発を進め、2020年の実用化を目指します。

理研は2016年にマウスiPS細胞を用いた皮膚器官系の再生に成功しており、京セラとの技術連携でこれらのノウハウが活きた技術が生まれるのではないかと期待が寄せられています。

iPS細胞由来の皮膚器官系から毛包を含む「再生皮膚器官系ユニット」を分離し、別のマウス皮下へ移植したところ、移植組織はがん化することなく生着し、末梢神経や立毛筋などの周囲組織と接続して、機能的な毛包を含む皮膚器官系を再生することも示しました

資生堂と京セラでは毛髪再生の方法は若干異なりますが、どちらも実用化されればAGAやFAGAなど薄毛に悩む男性、女性の悩みが解消するかもしれません。今後の展開に期待しましょう!

毛髪再生医療のメリット

毛髪再生医療にも従来の治療と同じく様々なメリット・デメリットが存在するため、治療を受ける際には、事前にこれらを良く検討しておくことが大変重要になります。まずはメリットから見ていきましょう!

現在、毛髪再生医療において判明しているメリットには以下のようなものがあります。

身体的負担が少ない

毛髪再生医療は人工毛の植毛などと異なり、自分自身の細胞を培養したものを移植するため、拒絶反応が起きにくいとされています。

また、自毛植毛のように広い範囲に渡って頭皮を切除する必要もないため患者さんの身体的な負担も少なく、社会生活への影響も最小限に抑えることが可能となります。

服薬による治療でみられるような副作用がないこともメリットであり、他に疾患を抱えている方や未成年の方、高齢の方など幅広い層に適用可能な治療法として注目を集めています。

男女問わず一度の施術で効果が期待できる

毛髪再生医療のメリットとして、原則として一度の施術で効果が期待できることがあげられます。
服薬による治療のように月1回のペースで何年にも渡って通院するといった必要がなく、忙しい方にも適した治療法となっています。

さらに、男女問わずに治療を受けることができ、一部の治療薬にみられるような性差による治療の制限がないこともメリットとなります。

ips細胞よりも身近な治療方法

再生医療には自分以外の細胞を用いる「他家細胞移植」と自分の細胞を使用する「自家細胞移植」があり、資生堂と京セラの毛髪再生医療は現状では「自家細胞移植」を採用しています。再生医療と言うと「ips細胞」を連想する方も多いかと思いますが、先述の通り現時点での毛髪再生医療は自分の細胞を培養して治療を行う方法で研究が進められており、自分の細胞を用いた治療であることから拒絶反応やアレルギーなどが起きるようなリスクも低いと考えられています。

薬に頼らない治療へ

AGAの原因となる1型5α-リダクターゼ、2型5α-リダクターゼを抑制する効果があるとしてプロペシア(フィナステリド)やデュタステリドの処方を行うクリニックが多数ありますが、これらは服用期間中しか抑制効果がありません。当然服用を止めると再びAGAが進行しますが、毛髪再生医療はこれら5α-リダクターゼの影響を受けにくい後頭部の細胞をベースとしていることから治療完了後はプロペシアなどの服用が必要なくなるのではないかと考えられています。

長期間に及ぶ服薬は身体に負担を掛けかねませんし、医師の診察や処方を定期的に受けるような負担も軽減できるのは大きなメリットと言えるでしょう。

毛髪再生医療のデメリット

それでは次に毛髪再生医療のデメリットにはどのようなものがあるか見ていきましょう!

細胞の培養に時間がかかる

毛髪再生医療では、クリニックなどで頭皮から採取した細胞を、専門機関に送って特殊な装置を用いて培養することになります。
培養には数か月かかるとされており、専門機関の規模や混み具合によっては治療を受けるまでにかなり待たされる可能性もあります。このため、自毛移植などと比べると時間がかかることは覚悟しておく必要があると言えるでしょう。

自由診療のため治療費が高額になる

現時点では治療が開始されていないため、具体的な治療費についてははっきりしませんが、毛髪再生医療の治療費はかなりの高額になることが予想されます

これは、治療費が自由診療のため健康保険が適用されない10割負担であることに加えて、最新の技術を盛り込んだ高度な治療法であることも原因となります。

現時点で行われているHARG療法や自毛移植では治療完了までに数十万~数百万円の高額な費用が発生しますが、毛髪再生医療ではこれをさらに上回る費用が発生する可能性があります。

ある程度の歳月を経て治療が普及してくれば、価格も次第に下がっていくでしょうが、開始当初はかなりの出費を覚悟しなければならないと予想されます。

車一台分の費用がかかるなどとも言われており、治療を望まれる方はご自身の経済状態を良く考慮して今のうちから資金を準備しておくことも必要になるでしょう。

まとめ

毛髪再生医療はまだ研究段階ではありますが、身近な治療方法となるのもそう遠くないと思われます。
「どこまでコストを抑えられるか」「AGAや薄毛を完全に治せるのか」などの問題点もありますが、AGAや薄毛の治療方法として今後の展開に期待が寄せられます。

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